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“自分がやった方が早い”という病

自分がやった方が早いという病のイメージ画像

「あの件、どうなってる?」 「あ、すみません。まだ手が回っていなくて……」 「もういい、貸して。私がやるから見ていて」

部下のパソコンを覗き込み、もどかしさに耐えきれず、ついキーボードを奪ってしまう。 あるいは、部下から上がってきた書類の不備を指摘する時間が惜しくて、夜中に一人で修正作業をしてしまう。

そして、あっという間に完了させ、こう思うのです。 「やっぱり、自分がやった方が早いな」と。

毎日、現場の最前線で戦っている経営者や管理職の皆様。 もし、この光景に少しでも既視感を覚えたのなら、少しだけ手を止めてこの記事を読んでみてください。

あなたはきっと、誰よりも仕事が速く、責任感が強く、そして会社想いの方でしょう。 しかし、その「優秀さ」と「優しさ」こそが、今、組織の成長を止めている最大のボトルネックになっている可能性があります。

今回は、多くの優秀なリーダーが陥る「自分がやった方が早い病」について、その症状と治療法、そしてSHIOパートナーズが考える「自走する組織」への変革についてお話しします。

「確かにあなたが早い」という罠

まず、事実として認めましょう。 あなたは、早いです。

創業からビジネスを牽引してきた経営者や、実績を買われて昇進した管理職であるあなたと、経験の浅い部下を比べれば、スキルの差は歴然です。あなたが30分で終わらせる資料作成に、部下は3時間かかるかもしれません。しかも、クオリティはあなたの方が高い。

「3時間かけて60点のものを出されるくらいなら、私が30分で100点の仕事をした方が、会社にとっても利益になるはずだ」

短期的な損益計算書(PL)だけを見れば、その判断は正しいように見えます。人件費というコストに対して、アウトプットの質と量が最大化されているからです。 しかし、ここに「時間軸」という罠があります。

その「30分の巻き取り作業」は、今日だけで終わるでしょうか? 来月も、再来年も、あるいは5年後も、あなたがその作業をやり続けるのでしょうか?

あなたが部下の仕事を巻き取った瞬間、組織の生産性は「あなたの限界値」で頭打ちになります。 あなたが今日稼いだ「部下が悩むはずだった2.5時間」という高効率は、実は「組織の未来の可能性」を先食いしているに過ぎません。

組織開発の視点で見れば、これは「高効率」ではなく、「持続可能性の欠如」と呼びます。 優秀なあなたがプレイヤーとして走り続ける限り、組織はいつまでたっても「あなたの手足」以上の存在にはなれないのです。

その優しさは「成長泥棒」である

「部下に失敗させたくない」「お客様に迷惑をかけられない」「彼らも忙しそうだから」 あなたが仕事を巻き取る背景には、そんな「優しさ」があるかもしれません。

しかし、あえて厳しい言葉を使います。 その優しさは、部下に対する「成長泥棒」です。

思い出してください。あなた自身が若手だった頃、どのようにして成長しましたか? 最初から完璧にできましたか? きっと、冷や汗をかくような失敗をし、上司に怒られ、悔しい思いをし、試行錯誤を繰り返す中で、「仕事の勘所」や「判断基準」を身につけてきたはずです。

失敗や試行錯誤こそが、ビジネスパーソンにとって最大の「成長リソース」です。

あなたが「遅いから」「危なっかしいから」といって手を出した瞬間、あなたは部下から以下のものを奪っています。

  • 経験値:自分で考え、手を動かしたという事実

  • 思考の機会:「なぜうまくいかないのか」を悩む時間

  • 達成感:自分の力でやり遂げたという自信

  • 責任感:「自分の仕事だ」という当事者意識

これらを奪われ続けた部下はどうなるでしょうか? 「どうせ最後は上司がやってくれる」 「自分で考えても直されるから、言われたことだけやろう」

こうして、あなたの周りには「指示待ち人間」が量産されます。 彼らが育たないのは、彼らの能力が低いからでも、採用のミスマッチだからでもありません。 皮肉なことに、優秀で優しいあなたが、彼らが育つための「養分(失敗の機会)」をすべて摘み取ってしまっているからなのです。

名選手、必ずしも名監督にあらず

ここで、プロスポーツの世界を想像してみてください。 得点王のストライカーが監督になったとします。試合中、チームが攻めあぐねているのを見て、監督がベンチから飛び出し、ユニフォームに着替えてピッチに乱入し、ゴールを決めたらどう思うでしょうか?

観客は盛り上がるかもしれませんが、チームとしては崩壊です。 他の選手は白け、戦術は機能しなくなります。

ビジネスも同じです。 プレイヤーの価値は「個人の成果」ですが、管理職・経営者の価値は「チームの成果」です。

あなたがプレイヤーとして売上を作り、現場の火消しに奔走している時、あなたは「管理職としての職務放棄」をしていることになります。

「今は人が足りないから仕方ない」 「プレイングマネージャーであることが求められている」 そう言い訳をして、「忙しい自分」に酔っていませんか?

現場の仕事は、達成感が分かりやすく、即効性があります。電話を一本かければアポが取れ、書類を作れば仕事が進んだ気になれます。 一方で、マネジメントや人材育成、戦略策定は、成果が見えにくく、時間がかかり、ストレスも溜まります。

もしかすると、あなたは無意識のうちに、難易度が高く正解のない「マネジメント」という仕事から逃げ、慣れ親しんだ「プレイヤー」の仕事に安住しているのかもしれません。

あなたが組織の「蓋」になる時

株式会社SHIOパートナーズでは、多くの経営者様からご相談をいただきますが、成長に伸び悩んでいる企業の共通点があります。 それは、「社長のキャパシティ = 会社の成長限界」になっていることです。

「5年後の売上目標が見えない」 「新しい事業の柱が育たない」 そう嘆く経営者に限って、現場の細部にまで口を出し、全ての決裁権を握りしめています。

あなたが現場にいる限り、あなたは「今日」と「明日」のことしか考えられません。 誰が「5年後」の戦略を描くのでしょうか? 誰が市場の変化を察知し、会社の舵を切るのでしょうか?

あなたが現場で100点の仕事をすればするほど、部下は80点、60点の仕事しかできなくなります。なぜなら、あなたが正解(天井)を決めてしまっているからです。 これを「蓋(ふた)の法則」と呼ばれています。リーダーの器以上に、組織は大きくならないのです。

「俺がいないと回らないんだよ」 居酒屋でそうこぼすのは、誇り高いことではありません。 それは、「私は経営者として、組織のリスク管理と仕組み化に失敗しています」と自己紹介しているのと同じです。 あなたが倒れた明日、会社が止まる。それは顧客にとっても、従業員にとっても、最大の経営リスクなのです。

「任せる」とは「我慢」への投資

では、どうすればこの病を克服できるのでしょうか? 特効薬はありませんが、リハビリテーションの方法はあります。 それは、「任せる」という行為を、「業務の放棄」ではなく「我慢への投資」と捉え直すことです。

これまで「自分でやった方が早い」と考えていた時間を、「部下が失敗するのを見守る時間」に当ててください。

1. 最初から100点を求めない

60点で合格を出してください。残りの40点は、致命的なミスでない限り、目をつぶる勇気を持ってください。顧客への提供価値として許容できるラインであれば、部下のやり方を尊重します。あなたのやり方が唯一の正解ではありません。

2. 手直しではなくフィードバック

提出されたアウトプットに不備がある時、あなたが修正してはいけません。 「ここの論理が飛躍しているから、もう一度考えてみて」 「お客様の視点に立つと、この表現はどう感じる?」 と問いかけ、本人に直させてください。 手直しは数分で終わりますが、フィードバックと再提出には数時間、数日かかるでしょう。それでも、そこにかける時間はコストではなく「投資」です。

3. 「教える時間」は将来の「自分の自由」

「教える時間がない」という言葉は、「私は将来もずっと忙しいままでいたい」と言っているのと同じです。 今、歯を食いしばって10時間を投資して部下を育てれば、来月のあなたの10時間が浮きます。半年後には100時間が浮きます。 その空いた時間で、あなたは本来やるべき「経営」の仕事ができるようになるのです。

「自分の仕事をなくす」ことが仕事

私たちSHIOパートナーズは、「企業が自らの意思で成長できる社会をつくる」ことをミッションとしています。 「自らの意思で成長できる」とは、経営者一人のカリスマ性や馬力に依存せず、組織全体が課題を発見し、解決し、前に進んでいける状態を指します。

そのためには、リーダーであるあなたが、「自分の仕事をなくすこと」を究極のゴールに据えなければなりません。

自分が現場にいなくても、売上が上がる仕組みを作る。 自分が判断しなくても、現場が正しい判断を下せる基準(理念・バリュー)を浸透させる。 自分が指示しなくても、社員が自ら考えて動く風土を作る。

これこそが、真に強い会社の姿であり、経営者・管理職が目指すべき到達点です。

「自分がやった方が早い」 その誘惑に駆られた時、一呼吸置いて自分に問いかけてください。 「これを私がやることで、組織は強くなるか? それとも、私がいないと回らない組織に近づくか?」

もし、本気で今の「ワンマン体制」や「プレイングマネージャーの限界」から脱却し、5年後、10年後も成長し続ける組織を作りたいとお考えであれば、ぜひ私たちにご相談ください。 あなたの「忙しさ」を解消するのではなく、あなたの会社が「自走する」ための仕組みづくりを、経営の本質からサポートいたします。

まずは、あなたが抱えているその重荷を、少しずつ下ろすことから始めませんか?
SHIOパートナーズは、そんなあなたの「変化への挑戦」を全力で支えます。