お役立ちコラム

DX失敗あるある

作成者: 石神 嘉代郎|Apr 13, 2026, 11:00:00 PM

新しいシステムを導入したのに、担当者は同じ内容をExcelにも入力し、月末には別の表へ転記して集計する。会議には数字が並んでも、何を止め、どこへ人を振り向けるかという判断は以前と変わらない。ツールは動いていても、業務の手間や意思決定が変わっていない状態です。

この場面で、原因を現場の抵抗やツールの性能へすぐに求めると、ほかの接続不全を見落とすおそれがあります。本稿では、目的、業務、役割、データ、現場負担、見直しという六つの接続から停滞箇所を診断し、最初に立て直す一業務を決める手順を整理します。

この記事の結論

DXが進まないときに確認したいのは、ツールの不足だけではなく、目指す変化、現行業務、責任者、使うデータ、現場の運用、見直し条件のつながりです。新しい機能を増やす前に、対象業務を一つ選び、変える行動、責任者、指標、確認日を決めて試します。

この記事の要点

  • 目指す顧客・業務の変化を、ツール名を使わず説明する
  • 現行業務を可視化し、二重作業や不要な手順を先に見直す
  • 実行責任者と判断者を分け、変更できる範囲を決める
  • データを収集目的にせず、会議の判断と次の行動へつなぐ
  • 一業務から試し、定量・定性の両面で続行・修正・停止を判断する

DXの失敗とは何か?

本稿では、投資後も合意した顧客価値、業務、判断の変化が生まれず、運用を見直し続けられない状態を「DXが進んでいない」と整理します。システム障害の有無だけで決まるものではありません。

経済産業省の「デジタルガバナンス・コード3.0」は、DX経営を経営ビジョンやビジネスモデル、戦略、組織・人材、ITシステム、成果指標と見直しなどを含む枠組みとして示しています。IPAの「DX推進指標」も、関係者が現状と目標の差を共有し、具体策、体制、責任者、期限、進捗管理へつなげる自己診断を扱っています。

電子化やツール導入は、変化を支える必要な基盤になり得ます。ただし、導入した事実だけで顧客や業務の変化まで示したことにはなりません。

本稿では、DXの進捗を、導入したツールの数ではなく、顧客や業務の変化を事実で説明できるかという観点から確認します。

原因をどう見分ける?

原因を見分けるには、項目ごとに一律の点数を付けるのではなく、目指す変化から日々の運用と見直しまでの、どの接続が切れているかを探します。次の六分類は公的機関の公式分類ではなく、SHIOパートナーズが実務上の点検入口として整理したものです。

DX点検の6問

一つの対象業務を思い浮かべ、次の問いに答えられない場所を確認します。

  1. 目指す顧客・業務の変化を一文で説明できるか
  2. 新しい仕組みで、なくす仕事と変える仕事が決まっているか
  3. 実行責任者、判断者、現場の担当範囲が分かれているか
  4. 集めるデータが、会議の判断と次の行動に使われているか
  5. 現場に増える負担と、減る負担の両方を確認したか
  6. 指標、確認日、続行・修正・停止の条件が決まっているか

目的と成果はつながるか?

最初に、「DXを進める」「AIを使う」ではなく、顧客、社員、経営判断の何を変えたいのかを定めます。ツール名を外して説明できなければ、手段が目的より先に決まっている可能性があります。

成果指標だけでなく、誰のどの行動が変われば成果へ近づくと考えるのかも書きます。結果と途中の行動を結ぶことで、実施中に修正すべき場所を見つけやすくなります。

業務を先に見直したか?

新しい仕組みに合わせる前に、現行業務の開始条件、担当、入力、判断、引き継ぎ、完了条件を一枚にします。紙やExcelの手順をそのまま画面へ移すと、二重入力や不要な承認が残る場合があります。

なくす仕事と変える仕事を先に決め、その後で仕組みに必要な条件を絞ります。導入済みツールが使われない場合の詳しい点検は「高機能ツールはただの箱」で整理しています。本稿では、ツール不活用を全体診断の一項目として扱います。

責任者と権限は明確か?

少なくとも、成果に責任を持つ人、日々の運用を直す人、対象範囲の変更を決める人を明確にします。経営、事業部門、推進部門、IT、ベンダーの分担は、対象業務に合わせて決めます。

デジタルに詳しい、若手であるという理由だけで、担当者へ部門調整や廃止判断まで委ねないことも重要です。責任とともに、判断できる範囲と相談先を渡します。

データは判断に使えるか?

集めるデータは、どの会議で何を判断し、次に誰が動くために使うのかまで決めます。入力率や蓄積量を目的にすると、記録は増えても判断が変わらないことがあります。

数字とともに、使いにくさ、手戻り、顧客や現場の反応も確認します。営業・マーケティングで項目や連携を具体化する場合は「MAやSFA設計のポイント」へ進んでください。

現場の負担を見ているか?

新しく増える入力、確認、学習だけでなく、廃止する帳票、会議、集計も同時に決めます。負担の増減が見えなければ、現場が従来手順を残す理由も判断できません。

使われない状態を意欲不足と決めつけず、時間、手戻り、説明、支援の事実を確認します。質問先、設定の更新者、異動時の引き継ぎまで運用に含めます。

見直す指標と期限はあるか?

KPI、途中の節目、責任者、確認日を一組にし、開始時に続行・修正・停止の条件を決めます。確認日がなければ、施策を続けること自体が目的になりかねません。

指標が動かないときは担当者の実行不足へ直結させず、目的、対象、手順、支援、観察期間の仮説を分けて見直します。

何から立て直す?

新しいツール選定へ戻る前に、理想と現状を一枚にし、変化を確認できる一業務を選びます。その一業務で、行動、指標、確認日を一続きに設計します。

理想と現状を一枚にする

対象業務について、目指す状態、現行の流れ、困りごと、役割、使うデータを書き出します。部門ごとの症状だけでなく、前工程から何を受け取り、次の担当へ何を渡すかまでつなげて見ます。

最初の業務を一つ選ぶ

最初の対象は、効果の大きさだけでなく、範囲を区切れ、変化を確認でき、問題があれば戻せる業務から選びます。AI社員へ任せる業務を検討している場合は「AI社員に最初に任せる業務」も参考にしてください。

最初から全社を変えず、確認できる一業務で試し、得た学びを次の設計へ戻します。

行動と指標を一組にする

指標名だけを置かず、誰が何を変えると指標が動くと考えるのかを書きます。確認日には、処理時間や件数などの定量変化と、使いやすさ、手戻り、顧客・現場の反応などの定性情報を同時に見ます。

確認日を先に決める

実施後に様子を見るのではなく、開始前に確認日と判断者を決めます。その日に何を見て、続行、修正、停止のどれを判断するのかまで合意します。

よくある疑問は?

迷ったときも、ツールや展開範囲を先に決めず、六つの接続のどこに不整合があるかへ戻ります。

ツールを替えるべきか?

直ちに替えるとは限りません。目的、業務、役割、データ、運用を確認し、現行ツールが必要条件を満たさないと分かった段階で要件を固定して比較します。

全社で始めるべきか?

全社共通の目的やデータ定義は必要でも、実装を一斉に広げる必要はありません。影響を確認できる一業務や一部門で試し、得た学びを共通ルールへ戻してから次の範囲を決めます。

担当者だけで進められる?

日々の運用は担当者が担えても、優先順位、予算、部門間調整、業務の廃止には管理職や経営の判断が必要です。推進担当者へ責任だけを集中させず、判断者と支援者を決めます。

今日から何を始める?

まず一つの対象業務を選び、次の五項目を一枚に書き出してください。

  1. 目指す変化
  2. 現行の流れ
  3. 最初に変える行動
  4. 責任者と判断者
  5. 指標と確認日

埋まらない項目があれば、そこが最初の確認場所です。全社DX計画を作り込む前に、この一枚を関係者で見ながら、試す範囲と判断方法を揃えます。

自社だけで、目指す変化、業務、役割、データ、確認方法のつながりを整理しにくい場合は、SHIOパートナーズのサービスをご覧のうえ、お問い合わせください。現状と目指す姿から、最初に扱う範囲と進め方を一緒に整理します。