お役立ちコラム

数字目標だけの経営

作成者: 石神 嘉代郎|Feb 23, 2026 11:00:00 PM

数字は大事、でも「数字だけ」になっていませんか?

期初のキックオフで、経営陣から発表されるのは「今年の売上目標◯◯億円、営業利益▲▲%」といった数字だけ。
各部門には「昨対◯◯%アップ」「1人あたり売上◯◯万円アップ」として降りてくる。
もし、この光景に心当たりがあれば、この記事はまさにあなた向けです。

数字の目標自体は不可欠です。ただ、数字だけを追う経営は次のような歪みを生みます。

  • 成長計画が描けず、中長期(5年後など)の姿がイメージできない

  • 結果だけで人を評価し、離職やモチベーション低下を招く

数字だけ追う現場

期初の全社会議でKGI(目標)だけが一方的に宣言され、部門別の数字が細かく割り振られる。
現場に伝わるメッセージは「とにかくこの数字を達成してほしい」です。

その結果、

  • 「数字さえ達成すればOK」という空気が強まる

  • アクションの質よりも、短期的な結果だけが重視される

目標未達が見えた途端に出てくるのは、

  • 「もっと件数を増やせたはず」

  • 「提案数が足りない」

といった根性論です。これでは、構造的な課題やプロセス改善の議論は生まれません。

なぜ計画が描けないか

多くの組織で、「計画らしい計画」が描けない理由はシンプルです。

1. 中長期の姿が共有されていない

  • どの事業を伸ばしたいのか

  • どの顧客セグメントで勝ちたいのか

  • 会社規模をどう拡大していくのか

こうした中長期の絵が経営陣の頭の中だけにあり、部門長や現場と共有されていないケースが多くあります。
これでは、現場が自ら工夫しようにも「どこに向かえばいいか」が分かりません。

2. 戦略・打ち手が数字とセットで議論されていない

KGIを決めるとき、本来は同時に、

  • 注力する市場・顧客

  • 提供価値と差別化ポイント

といった戦略も議論されるべきです。
ところが実際には、「昨年対◯◯%アップ」という数字だけが先に決まり、
前提となる戦略や打ち手が言語化されないまま現場に流れていきます。

3. 部門ごとの数字だけが細分化され、全体像が見えない

部門長の手元には自部門の数字は詳細にありますが、

  • 全社の売上構成

  • 顧客の購買プロセス全体

は見えません。結果として、部門最適の判断になりがちで、現場の努力が全社の成果につながりにくくなります。

逆算思考で未来を描く

逆算思考は、経営のゴールからマーケティングや営業の現場までを結ぶ考え方です。

1. まず「5年後どうなっていたいか」を描く

最初に決めるべきは、単なる売上総額ではなく、次のようなゴールイメージです。

  • 顧客像:どんな業界・規模・課題を持つ顧客が中心か

  • 売上構成:既存/新規、主力商品/新サービスの比率

  • 事業バランス:どの事業が柱で、どの事業が次の柱候補か

この構造がないまま数字だけおくと、逆算は機能しません。

2. ゴールから逆算してマイルストーンを置く

5年後の姿から、

  • 3年後にどこまで到達している必要があるか

  • 1年後に何ができていればよいか

と段階的に落としていきます。
このとき、数字だけでなく、

  • 顧客数・顧客層の変化

  • 商品・サービスラインナップ

といった質的な状態もセットで定義することが重要です。

3. 戦略テーマをKGI・KPI・施策まで落とす

マイルストーンを支える戦略テーマを設定し、それを日々の業務に接続します。

<例>

  • 戦略テーマ:「解約率の低減によるLTV向上」

    • KGI:解約率◯% → ◯%

    • KPI:オンボーディング完了率、継続率

    • 施策:導入支援の見直し、定例ミーティング設計 など

こうして「戦略 → KGI → KPI → 施策」が一本の線でつながると、
現場は「なぜこの施策をやるのか」を理解したうえで動けるようになります。

売上目標を分解する

この辺りから部門長に裁量を渡しつつ、逆算思考を具体的な数値に落とし込むステップです。

1. 売上を「案件数×単価」に分ける

年間売上目標を決めたら、まずはシンプルに、

  • 売上 = 案件数 × 単価

と分解します。さらに、

  • 新規/既存

  • チャネル別(紹介・ウェブ・広告・展示会など)

の内訳を整理することで、「どこを伸ばせばいいか」が見えやすくなります。

2. マーケ〜営業〜CSまでプロセスにブレイクダウンする

次に、顧客の購買プロセスに沿って分解します。

  • 認知:サイト訪問、セミナー参加、資料DL

  • リード:フォーム送信、名刺交換

  • 商談:初回打ち合わせ、トライアル

  • 受注:契約締結

  • 継続:更新、アップセル

各段階に必要な件数と転換率を設定し、マーケ・営業・CSそれぞれのKPIを定義します。

3. 「どのレバーを動かせば効くか」を明確にする

ここまで分解できれば、会議での会話は次のように変わります。

  • 「受注率は高いが商談数が足りない。マーケ施策を増やそう」

  • 「新規は順調だが解約が多い。CSとオンボーディングに投資しよう」

つまり、「どのレバーを動かすか」を議論できる状態になります。

プロセス可視化と評価

数字目標だけの経営から抜け出すには、プロセスの可視化と評価軸の見直しが欠かせません。

1. 顧客プロセスと部門の役割を一枚の図にする

顧客の購買プロセスをフロー図にし、

  • どの段階をどの部門が担うのか

  • どこでバトンが渡されるのか

を明確にします。
これにより、「どこまでが自分たちの責任か」が共有され、部門間の摩擦も減ります。

2. 定性指標を評価設計に組み込む

結果だけでなく、例えば以下のような定性指標も評価に入れていきます。

  • プロセス改善の提案・実行

  • ナレッジ共有・メンバー育成への貢献

  • 顧客満足度向上のための取り組み

こうした指標を評価に含めることで、「仕組みを良くする人」が報われる環境をつくれます。

3. 打ち手と学びのプロセス自体を評価する

結果だけでなく、

  • どんな仮説を立て

  • どんな打ち手を実行し

  • そこから何を学んだか

といったPDCAそのものを評価対象にします。

経営陣に求められる役割

この変化を主導できるのは、経営陣・役員層です。

1. 全体設計を描き、言語化して伝える

経営陣は、

  • 5年後のゴールイメージ

  • 戦略テーマと事業ポートフォリオ

  • 顧客プロセスと部門の役割

を描き、図や言葉で分かりやすく共有する役割を担います。

2. 数字の“設定者”から、仮説検証の“ファシリテーター”へ

経営者・役員は、「数字を決めて降ろす人」から、

  • 前提条件と仮説を共有し

  • 部門長と一緒に打ち手を考え

  • 実行結果から学びを引き出す

ファシリテーター的な役割にシフトする必要があります。

3. 自らも逆算思考とプロセス志向を身につける

そして、経営陣自身が、

  • 逆算思考で未来から現在を設計する力

  • マーケ〜営業〜CSまで一連のプロセスを理解する力

を身につけ、管理職と一緒に学び続けることが重要です。

数字は「スタート地点」であり「結果」

数字目標だけの経営から抜け出す鍵は、
数字を「ゴール」ではなく、戦略とプロセスの結果としての指標と捉え直すことです。

  • 5年後のありたい姿を描き

  • 逆算で戦略とプロセスを設計し

  • そのプロセスをKPIと評価に落とし込む

このサイクルを回せるようになれば、
数字はプレッシャーではなく、「正しく進めているかどうか」を教えてくれるナビゲーションになります。